魔法使い見習いと黒猫の日常。

ジュエルとオニキスのイメージを固めようと書いた短文二本。
…他に説明が有りません…。





いつもの朝、いつもの光景(オニキス視点)

 呪いにかけられ、人と猫の二つの姿を持つようになってかれこれ6年。
 この身体にはある程度慣れた、と言えば慣れたのだが、どうにも不思議な感覚の残るこの状態を、誰かに聞いて欲しいと言うのが本音だ。
 とは言えど、早々理解してもらえるだろうか、目線が変わるだけで心まで変わっている気がする、この状態を…。



「ジュエル、足」
「!」

 朝、泊まった宿部屋で食事をとっていると、ジュエルの足がぷらぷらと揺れていたのが目に入り、俺がポツリと呟くと、ジュエルはフォークを持ったまま両手を太ももに押し付け、縮こまった。
 もちろん、俺が注意した足の動きは止めた状態で。

「だって…、足届かないんだもん…」

 少し拗ねて呟くジュエル。
 確かに一般的な高さの椅子に座ると、ジュエルは後5センチと言う所で足先が届かない。その為足が動かしやすくなるので無意識に揺れていたのだろうが、足が届かない事は前から知っている。

「足が床に届かないのは俺も同じだ。だが俺は動いていない」

 食事の後のブラックコーヒーを、香り、味、共に楽しみながら告げる。とはいえ俺も足(正確に言うとかかとだが)を組んでいるので実はそれほど行儀の良い体勢ではないが。
 するとジュエルは膨れっ面になり、残っていた朝食を掻き込む様に食べきった。

「ジュエル! そう言う食べ方は行儀が悪いと」
「猫姿のオニキスは偉そうだから嫌い!!」

 そう言い放ったジュエルはパッと席を立ち、バタンッ! と音を立て廊下へと出て行った。

 ハー……。

 飲みかけのコーヒーを置き、額に出をやりながら俺の口から盛大なため息が漏れた。

(あぁ、またやった…。)

 この手のやり取りはいつもの話だ。まだ14であるジュエルを、世話してくれる存在から離したのは俺。それも『俺の呪いを解くことが出来る魔法使いに育てるため』と言う俺の事情で、だ。
 だからせめて、魔法使い、そして人としてのとしてのきちんとした教養と共に、一流のレディとして恥ずかしくない娘に育てようと思っているのだが、ジュエルにはそれがけむたいらしい。
 …いや、だがやはりジュエルの言うとおり、猫姿の時は人姿の時よりもジュエルに対する言い方がきつくなっている気も、しなくは、無い。
 情け無い、プライドの問題だ…。26の男が一回り下の娘を見上げているという、そんな自分が悲しくて、それに気付かれないように張った虚勢は、ジュエルにはきつく見えるだろう…。

(もぅ少し、俺も大人にならないと…。)

 もぅ一度、今度は小さくため息を付き席を立つ。その時同時に口の中で小さく魔法を詠唱したため、立ち上がったときの俺の身体は人間の物。ただし耳は猫で尻尾も有るが…。

 その身体で廊下へと出てみると、ジュエルは廊下の窓から外を見ていた。
 その顔がまだ膨れっ面をしていることは、窓に映る姿で俺にも見える。

「ジュエル」
「オニキスなんか嫌い!」

 あまりにキッパリと否定されるのはさすがに応える。

「ジューエール」
「嫌い!!」

 頭にポンポンッと二度手を置き、その後ゆっくりと、細く柔らかいジュエルの髪を撫でてやる。

「俺が悪かった。今度から気をつけるから、部屋に戻らないか?」

 出来るだけ優しい声で言うと、ジュエルは顔だけを俺に向け、ジッ…と俺の顔を見てくる。
 それに笑顔で返していると、ジュエルは不意にニコッと笑い、

「やっぱり人姿のオニキスは優しいから好き!」

 と言って抱きつかれた。

 ……あぁ、俺はどちらの姿でも俺だと思っているのだが、ジュエルと居ると本当に姿と共に中身まで変わっているような気になってくる…。
 このまま本当に中身まで二つにならないよう、早く呪いを解かないと…。

 だが、中身が二つに分かれようと分かれまいと、本来の姿の俺はジュエルに好かれているのだから、別に良いかという思いも、無くは、無い。




満月の夜のおやすみなさい(ジュエル視点)

「……ねてる」

 お風呂出てくると、わたしのベッドでオニキスが寝てた。
 それも珍しい事に、人の姿で。

 今日は町に着いた時には暗くなってたからまず宿を取ったの。一人部屋を一つ。だからベッドは一つだけで、それはわたし用のなの。
 いつもオニキスは猫の姿で、いつも持ち運んでる小さな籠の中に小さなお布団を敷いて寝てるの。人の姿になるのは魔力を使うから、寝ている時は自然に猫の姿になってしまうから、寝るのはそんな籠で十分なんだって。

 でも、今わたしに見えてるオニキスは、寝てるのに人の姿なの。

(? どぅいう事…?)

 とことことオニキスに近づく。
 起きる気配が無いから、ベッドの横に椅子を持ってきて座ってみた。
 起きたら怒られるかもしれない。人の寝顔をじろじろ見るなんて、レディとは言えないはしたない行為だって。
 …簡単に想像出来ちゃうからちょっと笑える。

 少し笑っちゃったら視線がずれて、オニキスの足が見えた。
 かかとだけ組んでる足は、もぅ少しでベッドからはみ出そうで、ベッドが小さく見えてしまう。

(すごぉい、私が寝たら凄く広いベッドなのに)

 肩幅も広いから、余計に小さく見えるんだろうなと思って、顔の方に視線を戻そうとして、オニキスの手の下に、黒い表紙の本が乗っている事に気が付いた。
 オニキス真っ黒黒だから、黒い本なんて持ってたらどっか行っちゃいそう…。

(そっか、私がお風呂の間だけと思って、寝っ転がって本読んでて、寝ちゃったんだ)

 寝っ転がって本読むなんてお行儀良く無いよ! って、起きたら言ってやろ。いつも私の色んな事注意するのに、こんなお行儀の悪い事やってたオニキスが悪いんだもん。

 色んな事を考えながら、わたしはまたそっとオニキスの顔に視線を戻した。

(すごぉい、髪サラサラ、黒髪なのにこんなにキラキラしてるし。良いなぁ、綺麗なストレート。
 あ、まつげも凄く長い! …まだ、起きないかなぁ…?)

 本当にまつげが長くて、ちょっと触ってみたくなって、そー…っと指を近づけると…

「いい加減飽きないか?」

 唐突にオニキスが目を開いてわたしを見ながらこぅ行ったの。

「お、起きてたの!?」
「ジュエルが椅子を引っ張ってくる音で起きたの」

 思わずバンザイみたいな体勢になっちゃったまま聞いてみると、クスクス笑いながらオニキスが言った。
 …失態。やっぱり周りで音がして起きないオニキスじゃなかった…。

「…それなら何で寝たフリしてたの?」
「いつ頃飽きるのかなと興味が湧いたから」

 ベッドに寝転んだまま頬杖を付いて、余裕と言った笑顔を見せてくる。
 悔しい、観察してる所まで観察されてるなんてっ!

「…っ、いつもわたしの行儀を注意してる人が、ベッドで寝転んだまま本を読むなんて行儀の悪い事して良いの!?」
「その行儀の悪い事をしてた人を起こして注意すると言う事もせず、寝姿を眺めると言う行儀の悪い事をしていたのはどこの誰?」

 あー言えばこー言うー!

「わたし寝るの! だからオニキスはソコどいて!!」
「なら一緒に寝ようか」
「!!?? わ、わたしレディだもん! 男の人と一緒になんか寝ないもんー!」

 そう言ってそっぽを向くと、後ろでオニキスがクスクスと笑って、

「残念、今日は人の姿で寝たかったんだけどな」

 そうポツリと呟いた。

「…どうして?」

 純粋に意味が分からなくて、少しだけ振り向いて訊ねると、オニキスは優しく笑って教えてくれる。

「今日は満月だろう? 月の光が強い。こんな日は呪いの力が弱まり俺自身の力は強くなるから、一度人の姿になると猫の姿を取る方が難しくなるんだ」

 …よく分からないけど、満月の日は猫の姿でいるの方が難しいんだ…? だから寝てても人の姿だったんだ…。

「けど仕方ない、猫姿に戻るとー……」

 ベッドから下りたオニキスの服のすそを掴んだ。そうしたら不思議そうな顔でオニキスがわたしを見てきてる。
 うつむいてるからちょっと顔が赤くなってるの、バレて無いよね…?

「あ、あの。オニキスが! わたしと、一緒に寝たいって言うのなら、許してあげないことも無い、よ…?」

 嘘つき、意地っ張り。自分で思う。
 だっ、だって、恥ずかしいんだもん……。

「許してくれるの?」
「オニキスが! そうしたいって言うのなら! ね!?」

 優しい笑顔で覗き込んでくる。顔が真っ赤なの、バレたかなぁ…?

「それじゃ、お願いしても良いかな? 今夜は人の姿で、愛しい俺のレディと一緒に、眠りたいのですが?」

 優しい声で紡がれた言葉に、恥ずかしさも何もかもが飛んで行っちゃった!
 『愛しいレディ』、オニキスが、そう呼んでくれた…!

「うん! 許してあげる!」

 嬉しくて嬉しくて、わたしは満面の笑顔で抱きついたわたしを、オニキスは優しく支えて抱き返してくれる。
 その腕が嬉しくて、抱きついた胸にわたしは思わずすりついちゃった。

 わたしもよ? わたしも大好き、わたしの愛しいジェントルマン!




この二人のイメージは『ラブラブ兄妹』
だからホントどんだけ義兄妹好きなんて……orz
…でもちょっとラブラブしすぎてて読み返して砂吐きたくなるんだけどね。

知ってる方殆どいらっしゃらないと思いますが、一代前の拍手お礼です。
色々と思うところがあって2・3日で取っ払いましたが。

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